2015年5月17日に神奈川県川崎市の木造3階建ての簡易宿泊所で火災があり、およそ1千平方メートルが全焼しました。火災発生当初、スクリプラーの設置などの火災対策について報道で言及されており、その重要性を認識させられる出来事でした。
深夜に発生した火災の場合、宿泊者が就寝中のため火災に気付くのが遅れます。結果、宿泊施設から避難が難しくなることが予想されます。ホテルや旅館だけでなく、小規模な民泊施設でも利用者の安全性を確保するために、防災対策は必要不可欠です。
このページでは、総務省消防庁の資料に基づき、住宅の一部を民泊施設とする場合に想定される消防用設備について解説します。
一般住宅の一部を民泊として活用するケース
ご自宅の一部を民泊施設にしたいとお考えの場合、住宅をどの程度を民泊として利用するかその比率で消防用設備の内容が変わるので注意が必要です。

民泊施設が建物全体の半分未満で50m2以下
ご自宅の一部を民泊施設とする場合、建物全体の半分未満で50m2以下であれば、民泊用に消防用設備の設置は必要ありません。
ただし、全ての住宅に設置義務がある住宅用火災警報器は必要です。
民泊施設が建物全体の半分未満で50m2越または建物の半分を占める場合
民泊部分が大きい場合、住宅全体が用途が混在する防火対象物となります。この場合、必要となるの消防用設備は次の3つです。
- 消火器・・・民泊部分の床面積が150m2以上の場合
- 自動火災報知設備・・・民泊部分のみ
- 誘導灯・・・全て
民泊施設が住宅の半分以上を占める場合
住宅の半分以上が民泊の場合、建物全部が宿泊施設としてみなされます。必要となるの消防用設備は次の3つです。
- 消火器・・・民泊部分の床面積が150m2以上の場合
- 自動火災報知設備・・・建物全体
- 誘導灯・・・全て
ご注意いただきたのが、自動火災報知設備です。民泊施設が建物全体の半分未満で50m2以下の場合は、民泊部分のみの設置で問題なかった自動火災報知設備ですが、 民泊施設が住宅の半分以上を占める場合、建物全体に自動火災報知設備の設置が必要とされています。
マンションなどの共同住宅の一部を民泊施設にする場合
共同住宅の場合、延べ面積と部屋の面積が要件に影響します。マンションの空き部屋などの民泊サービスとして提供する場合、延べ面積の大きさや民泊部屋の面積比によって設置要件が異なります。

延べ面積が500㎡以上の場合
延べ面積が500㎡以上のマンション等共同住宅にはもともと消火器の設置義務があるため、新たな規制はかかりません。
誘導灯に関しては、廊下、階段等の共有部分に設置すれば足りるとされています。さらに、避難口までの歩行距離や視認性などの一定条件を満たせば誘導灯の設置は不要と判断される場合もあります。
延べ面積が300㎡以上かつ民泊施設が1割を超える場合
この場合、建物全体に自動火災報知設備の設置が必要です。消火器及び誘導灯の設置義務に関しては、延べ面積が500㎡以上の場合と同じ判断となります。
延べ面積が300㎡未満で民泊施設が1割未満の場合
この場合、民泊施設部分のみ自動火災報知設備の設置が必要です。消火器及び誘導灯の設置義務に関しては、延べ面積が500㎡以上の場合と同じ判断となります。
自動火災報知機と住宅用火災警報器の違い
室内で熱や煙が発生した場合、感知器が異常を感知し、受信機に火災信号を送り知らせる装置、それが自動火災報知設備です。単体の感知器を鳴らすだけの「住宅用火災警報器」とは異なります。
住宅用火災警報器とは、火災により生じる熱や煙を感知し、警報機の設置場所およびその近隣にいる者に火災警報を発することができるもので、感知器と警報機がセットになった機器です。
一方、自動火災報知設備はより多くの機器(受信機・発信機・中継器・表示灯・地区音響装置・感知器)から構成されます。
- 受信機:ベルなどで警報を発し、建物内にいる人に火災の発生を知らせる設備です。
- 発信機:火災を発見した人が押しボタンを押すことにより火災を通報する装置です。
- 感知器:火災の初期に発生する煙などを感知するものや、火災による周囲温度の上昇を感知するもの、室内の物が燃焼する際に出る放射エネルギーを感知するものなど種類があります。
- 地区音響装置:建物内にいる人々に火災の発生を知らせるもので、赤い大きなベルが用いられています。
自動火災報知設備の設置費用ですが、特定小規模施設用のもので20~40万円、本格的なものではて100万円は超えようです。
まとめ
東京消防庁がまとめた平成26年の住宅火災の実態によると、死者の発生した住宅火災の出火原因の1位は、「たばこ」でした。寝たばこや、火の不始末などが主な要因となっています。

民泊施設で寝泊まりする訪日外国人の中にも喫煙家がいることは十分に考えられます。
法令に従い適切な消防用設備の完備だけなく、室内は禁煙または決められた場所での喫煙などの防火対策ルールを決め、ゲストにきちんと説明をすることも安全な民泊サービスを提供する上で重要だと思われます。
防火対策や火災発生時だけでなく、地震発生時の避難先や急病などの緊急時の対応について、宿泊施設を利用する訪日外国人向けに英文のマニュアルで解説が必要です。
これらは、ゲストが安心して宿泊できるようハウスルールやハウスマニュアルに記載しましょう。